テン・ハグの嘆きやロドリの指摘は、今後さらに耳を傾けるべきかもしれません。イギリスの世界的な保険仲介会社「ハウデン」が発表した「Men’s European Football Injury Index(男子欧州サッカー負傷指数)」によると、2023-2024シーズンの欧州5大リーグにおける負傷件数は合計4123件であり、その結果、クラブには総額6億1500万ポンド(約1194億円)の損害が生じました。
この数値は2022-23シーズンに比べて4%増加しており、過去最多を更新しました。リーグ別では、最も多かったのはブンデスリーガで、1255件の負傷が記録され、2年連続で最多を記録しました。一方、プレミアリーグでは2022-23シーズンの944件からわずかに減少し、915件となりましたが、選手の負傷による損失額は増加し、2億6800万ポンド(約520億円)に達しました。この額は、全体の44%を占めています。
プレミアリーグのクラブ別では、ニューカッスルが負傷件数76件で1位、次いでマンチェスター・ユナイテッドが75件で2位です。損失額では、マンチェスター・ユナイテッドが3981万ポンド、チェルシーが3022万ポンドで、それぞれ1位と2位に位置しています。2020-21シーズン以降、負傷件数がリーグ平均を下回っているのはウルブスとクリスタルパレスのみで、ニューカッスル、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、リヴァプールは4年連続で平均を上回っています。
アーセナルは過去4年間で負傷件数の増加が一度もなく、今シーズンの46件はリーグ平均に等しい数値です。トッテナムは4年前の54件から41件に減少しています。「1試合あたりの損失は約14万5300ポンド(約2818万円)」「1分あたりの損失は3106ポンド(約60万3000円)」という数字を見れば、その損失の大きさが一層際立ちます。
レポートが最も懸念しているのは、U-21選手の負傷が急増していることです。プレミアリーグの21歳以下の選手における負傷による欠場日数は、2022-23シーズンの26.5日から2023-24シーズンには43.9日に大幅に増加。また、負傷者数も前年の34人から51人に増え、負傷による欠場日数も901日から2240日に激増しています。この傾向は、他の欧州4大リーグでも同様に見られています。
欧州リーグ機構と国際プロサッカー選手会(FIFPRO)は、過密スケジュールを深刻な問題と捉えています。さらに、FIFAがクラブワールドカップ参加チームを7から32に増やしたことに対しても反発し、EUの競争法違反として訴訟を起こしました。この大会は開催まで8ヵ月を切っているにもかかわらず、スポンサーや放映権がまだ決まっておらず、賞金の財源も不明な状態であり、何らかの変更がなされる可能性があります。
クラブワールドカップの規模拡大や、チャンピオンズリーグのルール見直しが実施されれば、ワールドカップやネーションズリーグに対しても議論が高まるでしょう。しかし、この問題はより深く考える必要があります。過密日程の問題は「選手の健康を守る」という大義がありますが、クラブ経営の観点から見ると「選手の給与を増やすべきだ」という声も聞こえてきます。
FIFAやUEFA、各国リーグ、そしてクラブが収益を増やすためにぶつかり合う構図がある中、選手の移籍金や給与、代理人の手数料を抑制することも検討するべきでしょう。例えば、2022-23シーズンにトレブルを達成したマンチェスター・シティは、過去最高の収益を記録したものの、人件費比率は59%でした。業界平均が10%〜30%のところもあり、必ずしも持続可能な状態とは言えません。
クラブ側のスタンスも、注目すべきポイントです。彼らは「選手という貴重なリソースを傷つけたくない」という気持ちと「収益を増やしたい」という狭間に立っています。もしネーションズリーグが莫大な収益を上げるような大会(そうはなりませんが)であれば、クラブも拡大を支持するかもしれません。すべての関係者が納得する着地点が見つかるのかどうか、訴訟の結果を待つ必要がありますが、既得権がそのまま容認される可能性も否定できません。
選手たちにとって、プレミアリーグの日程を含め、試合数の削減はパフォーマンスを保つために必須な改革でしょう。